もんにょりしたこと

とある人が体調不良を理由に会社を辞めた。その人は仕事でなにかとトラブルをおこしがちだと聞いていたのだけど、トラブルといってもわざと悪いことをするとか、そういった悪質なものじゃなくて、ただ単になかなか覚えられないっていう感じだったらしい。あるとき、その人がかかわっている大きなお仕事の打ち合わせに、私も参加することになった。その席でうちの課の課長と副リーダーがその人に向かって、コイツは本当にだめだな、という顔をしながらあれこれ注意していた。仕事のアレコレをまだあまり理解していない私は、その人のどこに問題があるのかよくわからなかったのだけど、いつもは温厚なメンバーが明らかに冷たい態度でその人をしかっていてハラハラした。その人は注意を受けながらぺこぺこ頭を下げて謝っていた。そこに漂う黒い重たい空気。課長の言葉はソフトだけど、背中から真っ黒な霧が出てるように見えた。しかられてる側も、その重たいものを絶対に感じていたと思う。私以上に。私はそれが自分にかかったらどうなってしまうのかと、怯えながらお腹が痛い思いで見ているしかなかった。
その人は程なくして会社に来れなくなった。体調不良が原因らしい。自律神経失調症かな。黒い霧のせいだと思った。新米の私の耳にまで噂が届いていたくらいだ、きっと黒い霧はそこらじゅうに立ち込めていたんだろう。私からも出ていたのだろうか。
私はまだ会社に入って2ヶ月しかたっていない。仕事にはだいぶ慣れてきたけど、まだたまにミスをして注意されることがある。そんな新人な気持ちでいるためか、私はトラブルメーカーであった人を何とか助けられないのかと考えることが何度もあった。何度教えてもなかなか覚えられない、それでミスが多い、会社にとっては大きなことで、仕事が出来ない人は使えない人とされても仕方がないことだとは思う。みんなずっとがんばって教えてきたけど、全然上達しないからとさじを投げてしまったということもあると思う。でも、それでも黒い霧を出してしゃべることなんてなかったんじゃないだろうか。でも結局何も思いつかず、何も出来なかった。

これって、形はちがうけど、ほとんど学校のいじめと同じだと思った。大人は子どもと違って経験で、相手を傷つけないように言葉を選んだり行動したりできるけど、子どもと同じように、あれが気にくわない、あれがむかつく、といった感情はしっかりもっている。そしてそれが言葉じゃないもの、気みたいなもので現れる。よくいう、空気読むってのはこの気を読んで行動することなんだろう。空気の攻撃って怖いな。
私は、その空気をどうすることもできず、自分にふりかかったら。。。と怯えながら何も出来ない傍観者になっていた。私が先生になってたら、子どもたちになんていうんだろう。こんなんじゃ何も教えられないな。